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第10話 凍った男の焦り②

Author: なつめ
last update publish date: 2026-07-15 22:28:42

 リリアーナが王都を離れる。

 伯爵家の屋根の下から出て、西の丘陵へ行く。

 侯爵邸でも、伯爵邸でもない場所へ。

 前世では、彼女はずっと手の届く場所にいた。

 同じ屋敷の中に。

 同じ王都の中に。

 夜会へ出れば視界の端に。

 食卓へ向かえば向かいに。

 庭へ出れば、遠くからでも姿を見つけられる場所に。

 距離はあった。触れようとはしなかった。言葉も足りなかった。だが、それでも彼女は常に「見える場所」にいた。

 必要なら護衛を増やせた。

 危険があれば人を回せた。

 熱を出したと聞けば医師を増やせた。

 自分が隣へ行かずとも、手は届くと、勝手に思っていた。

 だが今度は違う。

 西の丘陵は王都から数日かかる。天候が悪ければもっと。小さな薬草院。周囲にいるのは貴族社会のしきたりより、土地の事情で生きている人間たち。王都の目は届きにくい。ヴァレンティア侯爵の名も、距離と地の利の前では鈍る。

 何より。

 何より、彼女は自分の意思でそこへ行くのだ。

 その事実が、胸の奥をきつく締めた。

「出立は」

「まだ確定ではございません。しかし伯爵家では奥方が既に衣類の選別を始
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